設備の買い付け -1-

建物ブルワリーを立ち上げるのに無くてはならないビールの醸造設備。あたりまえですがこれが無いことにはビールはつくれません。ところが醸造設備一式をそろえるにはかなりの額の投資が必要です。資金が豊富にあるというわけではない私たちにとっていかに安く醸造設備を手に入れるかが開業の大きなポイントでした。そこで考えたのがドイツでは近年醸造所の数がどんどん減ってきていて、廃業するところも多いということで、ドイツから中古の設備を運んできてはどうかということでした。何といってもビールの本場ですからしっかりした設備が手に入るだろうと考えたわけです。そこで今回はどのようにして設備を手に入れたかということをご紹介していきます。

古い醸造所を訪ねる

ドイツ人ブルーマスターのイヴォが売りに出ている醸造所を現地に問い合わせたところ何件もの紹介がありました。さすがはドイツだけあってビールの醸造に関するネットワークがしっかりしていてこういった情報もよく入ってきます。そのなかで5つほど使えそうな規模の醸造所があり昨年の4月に現地へみにいくことにしました。

最初に訪れたのは、ドイツ南部の小さな村のゾンネン醸造所という1852年に創業した歴史のあるブルワリーでした。オーナーに案内されて醸造所の中を見せてもらうといかにも年代を感じさせる仕込釜があり、聞くと1908年製とのことでしたが、4年前までは現役でつかっていただけありよく手入れされていました。

タンクさっそく仕込釜の中をチェック、イヴォは釜の中に入りプラスチックハンマーで釜の底をたたいて音を調べます。ゴンゴンという低い音がします。底が薄いとボコボコという音がしますが、これは大丈夫。釜の底の厚みは見てもわからないのでこうしてチェックします。一つ一つの部品も鋳物で作られていて、いかにも重厚な古きよき時代の機械という感じです。またクネクネと曲がった銅製の煙突や仕込釜のドアに取り付けられたちょっとした飾りなんかも単なる機械というよりは工芸品の雰囲気もあります。1908年というとまだ第一次世界大戦もはじまる前で世の中にもまだまだ余裕があった時代なのでしょう。

斜陽産業

ひと通り醸造所の中を見せてもらったあとお話を聞くと、ドイツではビール業界はどちらかというと斜陽産業らしく、オーナーの息子も醸造学科を出たけれども家業を継ぎたがらず都会に出て行ったまま帰ってこないとのことで、後継者がいないことから4年に製造をストップしてしまったそうです。かつては小さな村にも1つや2つの醸造所があり、みんなその村のビールを飲んでいましたが、流通が発達してどんどん大手メーカーに流れてしまっているという現状があり、また小さな醸造所の仕事はわりときついため(けっこう力仕事が多い)若い人が醸造の職にはつきたがらないそうです。

という話をオーナーの奥さんが涙ながらに話すのを聞いて、なんか日本の職人さん一家みたいだなとおもいつつ、貴重な伝統が失われていく寂しさも感じました。醸造の機械にしても買い手がついてまたどこかで使われる仕込釜は幸運ですが、たいがいは半分とか4分の1にカットされてレストランやパブの飾りとして使われるそうです。

最初は、単に経済的な理由から中古の設備をもってこようと思ったわけですが、古い醸造所を見てまわっているうちに失われつつある伝統を(日本という外国の地ではありますが)残していくことも意味のあることなんじゃないかと考えながらこの醸造所を後にしたのでした。

(次回につづく)

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Presented by 株式会社 ベアレン醸造所 2007年05月20日更新
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